塾長コラム(4月)

吉野町通信(2015.4月号長谷川コラム:長谷川の喜)です。

ちょっと古い話。現在は格闘家で、北京オリンピック柔道で金メダルを獲った石井選手の話です。彼は柔道家に似合わぬユニークな性格で、そのビッグマウスは回りに顰蹙(ひんしゅく)を買っていました。事件は、母校の国士舘大学で行なわれた優勝報告会で起きました。そこには石井選手の先輩で、2大会連続の金メダルを獲得した○○選手も出席していました。○○選手が先にマイクの前に立ち「みなさんの応援のおかげで勝つことが出来ました。母校の皆さんの前で金メダルの報告が出来ることを嬉しく思います」と、型通りの挨拶をしました。その後、挨拶に立った石井選手が○○選手の感情を逆撫(さかな)でするような発言をしたのです。「金メダルを獲れたのは、みなさんの応援のおかげではなく、自分の才能です。金メダルをとって思ったのは『オリンピックはちっぽけだ』ということです」これに腹を立てた○○選手は、「石井とは一緒にいたくない」と記念撮影に参加せず、先に帰ってしまったというのです。

 ○○選手の気持ちは充分理解できます。柔道に全てを奉げ、必死の思いで金メダルを連続で獲得した。それを「ちっぽけなこと」と評価されたら、自分の30年間の人生も「ちっぽけ」と評価されたのと同じです。普通の感性の持ち主ならば怒ります。まあ、石井選手は二十歳そこそこで世界の頂点に立ってしまった男ですから、天狗になり周りに対する配慮ができなかったのでしょう。小さい時から柔道だけをしてきて、人間としての品格を磨くことをしてこなかった。回りの指導者にも責任があります。
この話はTV番組で取り上げられたのですが、その時の司会者、芸能界を引退したが、最近復帰した島田紳助氏の解釈が素晴らしい。
彼は、こう言ったのです。「解るわ~。俺も若いときは同じだったから。ちゃうねん。本当にオリンピックや金メダルが『ちっぽけ』と思ったんじゃないねん。そこに行く前は『おおきなこと』やったねん。でも、それを達成した以上は、『ちっぽけなこと』と思わなんだったら、次へ進めんねん。獲った後まで『大きなこと』と思っとったら、それで満足して次のステップへ進まれへんねん。だから、わざと『ちっぽけなこと』と思うようにしたんねん」

 正確な言葉は再現できませんが、まあ、こんな趣旨のことを言ったのです。紳助さんは武田鉄矢さんと並んで、薀蓄(うんちく)説教が好きな芸能人で、個人的には好きではないのですが、時に参考になる言動をしてくれます。この解釈も見事です。どう考えても、図に乗った馬鹿者の戯言としか思えないセリフを見事に美化して意訳してくれました…で、見事に高校受験を突破し、高校生活を謳歌している「あなた」へのメッセージです。「あなたにとって高校合格は間違いなく大きな山だった。その山に挑む『あなたの努力』は素晴らしかった。しかし、今となっては『ちっぽけなこと』と思わなければならない。なぜなら高校受験を『ちっぽけなこと』と思わなければ、次の大きな山に挑めないからだ。大学受験、そして、その先へと君たちは次々と大きな山に挑まなければならない。今に満足していたら、次の山を超えられない。今日からは高校合格は『ちっぽけだった』と思うことにしよう」